BM=バカ眼鏡
→お前のものは俺のもの*→ふたたび
確かに俺が悪かった。全面的に、どう考えても俺が悪い。
だが、そこまで怒ることはないだろう。
「おい、いい加減機嫌直せ」
「……」
完全無視だ。まるで何も聞こえていないように、いや、俺が存在していないかのようになんの反応もしない。
夕方前、昼食と夕食の間の微妙な時間に、なんとなく小腹が減った。
ちょうどダイニングテーブルの上に、あいつが買っておいたメロンパンがあった。スーパー内のパン屋の新製品で、あいつの最近のお気に入りらしく、スーパーに寄ると必ず買っている。俺も最初ひと口もらったが、確かにうまいにはうまいものの濃厚なメロンクリームが甘ったるくて、その後は一度も食べる気はしなくてあいつはいつもひとりで幸せそうに食べている。
小腹が減っている。甘ったるいがうまいことはうまかった。──俺がそれに手を伸ばすには、十分な条件だ。
最後のひと欠片を口に入れたその時、風呂掃除を終えた半身に思いっきり見つかった。
俺はすでに前科二犯だ。あいつのアイスを勝手に食べた。食べるつもりはなかったんだが、冷凍庫を開けたら入っていたから仕方ない。
あいつは本気で怒ると、表情を消して無言になる。ぴーぴーと怒っているうちは、少し取り繕えばすぐに許してもらえるが、こうなると一筋縄ではいかない。
一応、今から買いに行くと言ってみたが、そういう問題じゃないと静かに返され、これは駄目だと悟った。
のが、かれこれ三時間前。
あれからずっと、こいつは俺を無視し続けている。
そのうち機嫌が直るだろうと放っておいたが、ここまでくるとさすがに気まずい。
「悪かった。もうしない。お前のものを勝手に食べない」
「……」
いまいち嘘くさいか。まあ嘘だからな。
「今度から、何か買う時はふたり分買おう。俺が食べなくてもお前が食べるんだし、無駄じゃないだろう」
「……」
それだと食費がかかって仕方ない。俺たちの面倒なところはそこで、俺たちが分裂した瞬間ふたり分になるものとならないものがあって、食料品はならないもののうちのひとつだ。
「じゃあ、これから一週間、なんでもお前の言うことを聞くっていうのはどうだ?」
「……」
「二週間?」
「……」
「一ヶ月なら?」
「……」
駄目だ。
だったら、最後の手段だ。
「悪かった。許して?」
背中を抱き寄せて、耳元で囁く。この方法は、一か八かだ。効果があるかもしれないし、余計に怒らせるかもしれない。
「<オレ>、許して」
媚びる声で、甘く言う。すり寄って、まさぐる。さあどうか。
「……」
無反応だ。そうくるとは。あくまでも無視するつもりか。
だったら。
「<オレ>?」
シャツの裾から手を入れて、肌を巡る。まだ柔らかい乳首を、爪先で軽く弾く。
「許して……?」
「っ」
尖った乳首を捏ねて、吐息を注ぐと、さすがに体が跳ねる。いけそうだ。
「もうしないから。悪かった。ごめん」
「ぁ」
かわいく言って、首筋に吸い付くと、小さく喘いだ。よし。
「<オレ>」
耳朶を甘く噛んで、舌を入れて、両手で乳首を捏ねて、腰を押し付ける。
荒くなった吐息が、熱い肌が、同じにおいが、心地いい。
ああ、なんかどうでもよくなってきたな。
許してもらえようがもらえまいが、どうでもいい。
欲しい。この半身が、こいつが欲しい。
「<オレ>」
「あっ」
股間をまさぐると、もう膨らみ始めていた。
ほら、お前だって、俺が欲しいだろう?
「<オレ>、したい。欲しい」
「や、やだっ」
出た。やだ。いやじゃないくせに。
というか、お前やっと返事したな。じゃあもういいか。許したってことだな。よかったよかった。
「気持ちよくしてやる」
「やあっ」
あとでメロンパンを買いに行こう。ふたり分。いやみっつだ。お前がふたつ食べればいい。みっつ全部食べてもいい。何個でもいい。好きなだけ買おう。
だからとりあえずは、俺をじっくり味わえばいい。
BM ~Part Ⅱ~ ○
2012.08.16