ポエマー眼鏡*ノマの場合→『unexplained』
それには理由なんてない。なぜなら当然のことだから。
当たり前に、自然に、常にそうだったから。
いつからかと問われれば、初めからと答えるしかない。
初めから。始まりから。いつでも。
まさかとは思う。こんなことはあり得ないと。
きっとこれは夢だ。こうであってほしいと願う幻だ。
いや違う。これは確かに現実で、紛れもなく手の中にある真実だ。
柔らかな髪も、滑らかな肌も、唇も、舌も、指も、穏やかな瞳も何もかも、形ある絶対的なもの。
暗く澱んだ深い底で、暖かく包まれて、守られていた。
傷を引き受ける代わりに、痛みの全てを背負わせた。
痛みにもがき、苦しむ様を、一番そばで、ずっとずっと見ていた。
望んだこと。願ったこと。選んだこと。そのはずなのに、時を経るごとに分からなくなった。
痛みはいつの間にか大きく溢れて、その心を完全に蝕んだ。
『痛い』 『苦しい』 『辛い』
こんなことを望んだんじゃない。待ってくれ。そうじゃないんだ。
『消えたい』 『消えてしまいたい』
そんなことは許さない。
分かれたけれど離れてはいない。別々だけど同じ。だったらどうすればいいのか、簡単なことだ。
初めて触れた頬は、思っていたよりずっと滑らかで、抱きしめた体は、思っていたよりずっとずっとあたたかかった。
やっと触れられた。やっと抱きしめられた。
これが望みだ。願いだ。選択だ。
この世の総てを掻き集めても、これ以上に欲しいものなんて、あるはずがないだろう。
「ん……」
腕の中で身じろぐ、無防備な寝顔。そっと髪を撫でてやると、それに応えるように、ゆっくりとまぶたが開かれた。
「……<俺>」
寝ぼけ眼の焦点が合うと、蕩けそうな顔で小さく笑って、俺を呼ぶ。
笑み返してやって唇を寄せると、開いたまぶたがまた閉じられる。
触れるだけのキスを何度か交わして、見つめ合う。
「<俺>」
愛しげに俺を呼ぶお前。優しく包み込むような、静かな笑顔。
俺はお前で、お前は俺なのに、同一人物なのに、それなのにこんなにも愛おしいお前。だからこそ愛おしいお前。
触れる指先。合わせた肌。凭れるぬくもり。見つめる瞳。
絶対に離さない。離れない。けれどもずっと離れたままでいたいなんて、おかしな話だ。
おかしいことも、俺たちにとっては当たり前のこと。ならそれはおかしいことじゃない。
お前がここにいること。俺たちがふたりでいること。それがこの先もずっと続くこと。
「愛してる」
滅多に言わない言葉を囁いてやると、照れたように嬉しそうに笑う。
「オレも、愛してる」
ああ、知ってるさ。
『愛してる』
初めから、始まりから、何も変わらない当たり前なこと。
First Love ○
2012.08.05