エロ有 克哉=眼鏡、<克哉>=ノマ
8月8日はメガネの日
「……そぉいっ」
「っ。おい」
シャツの端で眼鏡のレンズを拭いていたら、半身に奪われた。
「返せ」
「ふふふー。鬼畜眼鏡っ! そーちゃく!」
「馬鹿か」
冷たい目で見返しても、<克哉>は全く気にせず克哉の黒縁の眼鏡をかけてご満悦だ。
「似合う?」
「似合わない」
「じゃあお前も同じ顔なんだから似合ってないんだぞ」
「俺は別だ」
「なにそれ」
つんっとそっぽを向いて、端を掴んで上下させたり、克哉の真似をしてブリッジを中指で押し上げて遊んでいる。
そんなご機嫌な横顔を見ていると、ふつ、と、ある欲望が湧き上がった。
「おい」
「ん? あ、ちょっ」
後頭部を掴んで引き寄せ、間近に顔を合わせると、克哉の何らかの企みを敏感に察知した<克哉>が、まずい、という表情をした。
「あの、ご、ごめん。返す。眼鏡返す」
「いい。かけてろ」
「いい、いい、返す」
「いいから」
「んっ」
後ずさろうとする体をがっちりと抱いて、唇を合わせる。じたばたともがく<克哉>を無視して舌を入れて絡めてやると、徐々に抵抗が弱まっていく。
「ん、ん、んん」
まだ戸惑いはあるものの、素直に口付けを受けて甘い鼻声を漏らす<克哉>に、唇の端が上がる。
顔をずらすごとに眼鏡がまぶたを掠めて、いつもとは真逆の感覚が新鮮だ。
優しく絡めて甘く噛んで、髪を撫でて体をまさぐると、もう蕩けてしまった<克哉>がしがみ付いてくる。
こうなれば、<克哉>は克哉の思うままだ。
「んぅ。は……<俺>」
レンズ越しの潤んだ瞳が、情欲を一層煽る。期待に震えるその深い色に、湧き上がった欲望が溢れた。
もう一度軽くキスをして、密着した体をさらにきつく抱きしめ、熱くなった腰をぐりぐりと押し付けてやる。
「あ、あ、<俺>っ」
<克哉>のそこもすっかり熱をもって、ふたつの塊が互いの体の間で甘く痺れる。
「こんな、なってる」
「あっ!」
ルームパンツの中に手を引き、下着の上から触らせる。大きく膨れて脈打つそれを掌で感じて、<克哉>が鋭い声を上げた。
「どうしようか、これ」
「ん、ど、しよ」
分からない、というように首を振って、目尻を赤くさせて荒く息をつくのがかわいい。
獰猛に優しく笑って、鼻先を付けて吐息で囁いてやる。
「舐めて?」
「んっ……うん」
淫靡な願いに小さく体を跳ねさせた<克哉>が、子供のようにこくんと頷いた。
濃厚な口付けのせいでずれてしまった眼鏡を直してやろうとしたが、いややっぱりと思い直してそのままにした。克哉の脚の間に伏せた<克哉>が、フレームの上からちらりと見上げた表情に、なるほどこれはと思う。
自分が眼鏡マニアだという自覚はある。様々なデザインの色とりどりのコレクションを眺めている時は至福だし、飽き足らずもっとあれこれ欲しい。
だが、こういう方向の趣味があるとは思ったことはなかった。いや、趣味というよりは好奇心なのだろう。やってみたい、というときめきだ。
そして実際やってみたらかなりいい。もっと早く試してみればよかったと、今まで考えが至らなかった自分が僅かばかり腹立たしい。
「いいぞ、<オレ>」
「ん、ふ、んんっ」
克哉のものを口いっぱいに頬張って、<克哉>が夢中で奉仕する。
時折こちらを見るように促すと、言われた通りに上目で見やる顔がかわいくて、<克哉>に含まれた欲の塊が無意識に跳ね上がる。
「あむ、ん、んーん、ん」
うっとりと舌を這わせて唇で扱きながら、物欲しげに腰を揺らす。触ってやりたいが、まだ一番の目的が達成されていない。極限まで焦らしてやるのも、それはそれで克哉の趣味で<克哉>の好みだからいいだろう。
「ん、ん、んっ」
口の中の克哉の状態から、そろそろ限界が近いと感じ取った<克哉>が、最後の追い込みにかかる。
「っ、ああ、いいな」
体を重ねるようになった初めの頃はだいぶ拙かったこの行為も、今となってはかなり巧みな技を身に付けて、本気を出されたら声を出してしまいそうなほど気持ちがいい。じゅぷじゅぷと卑猥な音を立てて、容赦なく<克哉>が責め立てる。
「こっち、っく、見ろ」
頬をなぞると、蕩けた瞳が見上げる。
口いっぱいに銜えた猛り。上目遣いの潤んだ瞳。頬骨までずり落ちた黒縁の眼鏡──。
萌え、という言葉が、克哉の頭に浮かんだ。
「っ、出すぞっ」
「んーっ」
下半身から全身に、強烈な射精感が一気に広がる。<克哉>から与えられた快感が、脊髄を通って脳天を突き抜けようとする間際。
「んんっ!?」
口腔に受け止めるべく待ち構えていた<克哉>の頭を両手で包んで、欲が駆け上がる塊をずるりと唇から引き抜いた。
「うっあ……」
「ふあっ!」
どくどくと先端からしぶく白濁を、咄嗟に目を閉じた<克哉>の顔に存分にぶちまける。
「んー」
濃い粘液が、<克哉>の額に、頬に、鼻先に、そして眼鏡にかかる。溢れ続けたそれがおさまると、ぼんやりと目を開けた<克哉>が、口元に伝った粘液を舐めたあと、まだ震えるペニスをそっと銜えて、残滓をきれいに啜り取った。
「んは、ふ……」
「すご……」
克哉の白濁に塗れてうっとりする<克哉>に、思わず絶句してしまう。
顔に出すことはたまにあるが、黒いフレームと透明なレンズにかかった白い粘液という新たな淫猥要素が加算された<克哉>は、戦慄するほどに艶かしく、さすがの克哉も眩暈を覚えるほどだった。
「どうすんの、これ……」
顔に、眼鏡に白濁を受けた<克哉>をたっぷりと視姦しつつ、その熱を解放してやった。<克哉>もいつもとは違う状況にかなり興奮したらしく、あっという間に克哉の手の中で果てた。
べたべたになった顔を手を拭い拭ってやり、続きをすべくバスルームに移動した。
「洗えばいい」
「え……使うの?」
拭ってざっと流したものの、なんとなく自分でかけるのは躊躇われる。だったら。
「プレイ専用だな。またやる時に使う」
「なっ」
<克哉>が真っ赤になる。
「なにっ言ってっ」
「なんだ。お前だってよかったんだろ? あんなに興奮して」
「バッ、バッ、バッカじゃ、バッカじゃないっかっ」
べちべちと肩を叩かれているが、弱々しくてなんのダメージにもならない。
「なんなら今すぐやるか?」
「バカッ、バカッ!」
かけさせようとすると、今度は本気で叩かれた。
「痛い」
「やだ、やだ」
手首を掴んで壁に押し付けると、泣き出しそうに首を振る。
「冗談だ。今はしない」
「今は……」
「たまには、いいだろ?」
にやにやと眉を上げて尋ねると、ますます真っ赤になって潤んだ瞳で睨んでくる。
そんな顔をされたら、しないとは言ったもののしたくなってきてしまうのは、淫乱な半身のせいだから仕方ない。
「やっぱりお前かけろ」
「え、やだ、やだって」
「もうかけないから。かけるだけ」
「なんか日本語崩壊してる。や、やだ」
「お、ついでに。こっち見ろ」
「うそ、やだ、うそ」
無理矢理眼鏡をかけて、後ろから抱きしめて鏡のほうを向かせる。これは。なかなか。
肩に顎を乗せて鏡越しに目を合わせると、悟ったような顔をして体の力が抜けた。諦めたらしい。それならば、遠慮なくじっくり楽しむとしよう。
耳に口付け手を内腿に這わせると、眼鏡をかけた半身が淫靡な甘い声を響かせた。
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2012.08.08