VOICES ○
*・゜゚・*:.。..。.:*・゜Happy Birthday on June 4゜・*:.。..。.:*・゜゚・*



 あいつが歌ってる。
 家事をこなしながら、歌を歌うのがあいつのくせだ。
 好きなアーティストの曲を歌う時もあれば、その場で思い付いたわけの分からない自作の歌を歌っている時もある。
 洗い物をしながら気持ちよく今歌っている曲は、日本ではまだあまり知られていない、あいつの好きなアメリカのバンドの一曲だ。
 同一人物なのに、何もかもが正反対なあいつの音楽の趣味もいまいち理解できないが、この静かなバラードの曲だけは俺も案外気に入っている。
 歌うと幾分低くなるあいつの声に、ひそかに耳を傾ける。
 滑らかな発音が的確な音程に乗せられる、穏やかな歌声。
 その甘い声に心地好くなっているなんて、お前は知らないだろう。
 洗い物を済ませても同じ曲を繰り返し歌い続けているあいつを、じっと見つめる。
「あっ、ごめん。うるさかった?」
 俺の視線を勘違いして、口元を手で覆い眉を下げる。馬鹿なやつ。そんなこと、あるわけないだろう。
 隣にくるように促すと、素直に横に座る。
「なに?」
 きょとんと俺を見やる半身を、引き寄せて抱きしめる。
 もっと歌えよ。
 耳元で囁くと、びくっと体が跳ねる。
 ソファの上に押し倒して首筋を吸うと、蕩けた声が耳に甘く響いた。


「もっと、もっとだ」
 低い声が耳元に何度も何度も囁いて、ぞくぞくする。
 なにがきっかけだったのか分らないけど、いきなり押し倒されて、あっという間に始まった。
 もっと歌を聞かせろと、散々に責められてひどく啼かされている。
 オレの弱いところを知りつくした指先が体中でうごめいて、おかしくなりそうなくらいに気持ちいい。
 一番弱いところをくじられて、自分の声とは思えない高い声が上がる。
「いやらしい声」
 それはお前のほうじゃないか。
 同一人物なのに、オレの声とは全然違う甘い低音。
 普段は心地好いその低い声も、どうしてこの時はこんなにいやらしく聞こえるんだろう。
 欲情に掠れた艶っぽい声を耳に注がれると、頭が真っ白になって背筋が痺れてしまう。
「……<オレ>」
 オレを呼ぶお前の声。
 その甘い声にどれだけ狂わされてるかなんて、お前は知らないだろ。
「<オレ>」
 でもいいんだ。お前になら、どんなにされても。
 だから、その声で、もっともっとオレを狂わせて。
2012.06.04